今日7月19日は、梅崎春生の命日です。
今から54年前の今日、梅崎は東大医学部付属病院で亡くなりました。まだ50歳でした。

かつての担当医で交流もあった広瀬勝世医師によれば、静脈瘤の破裂による大量出血に引き続いての昏睡が、かなり進行した肝硬変の上に起こっており、これが死因となりました。

梅崎の文学忌は、「幻化忌」と名づけられています。
「幻化」は梅崎の遺作であり、代表作。

精神科病院を抜け出した主人公の男が、かつて海軍の下士官として終戦を迎えた地を旅します。

ぼんやりと死を考えている男は、二十数年前、戦死を恐れながら過ごした地を辿り、様々な人や風景、過去の記憶や幻想に触発されていきます。

概要を書くと重々しい作品のようですが、修飾の少ない短い文体が読んでいて心地よく、非常に映像的でモダン、自分も大好きな作品です。

そして、7月は梅崎春生の作品集を、電子ブックで自費出版してからちょうど一年でもあります。

梅崎は、小説や随筆に酒を多く書いていることから、酒をキーワードにして作品集を作ったら面白いのではないか、というのが発端でした。

自分も酒徒であり、酒による喜びも失敗も数多く経験しているので、梅崎の酒の出てくる作品に、ひときわ親近感や共感を感じました。

それに加えて、なぜこれほどまでに酒を飲み、酒を作品に書くのか、という視点を持つことは、梅崎春生という作家の本質に近づくための、ひとつの鍵でもあると思われました。

「幻化」の主人公も酒で肝臓をやられ、幻覚や幻聴の症状も出ています。

梅崎春生傑作集
第一巻「酒と戦争編」…戦前、戦中、戦後を通して、酒を飲み続けています。

第二巻「酒と病傷編」…泥酔してのケガ、肝臓や精神に不調をきたしながらも酒を飲みます。

第三巻「酒徒小説編」…酒が出てくる短編を中心に集めました。

詳しくは、本サイトの「梅崎春生の酒と文学」他を、ご覧下さい。

近年、自分は酒をセーブし、すっかり酒量も減ってしまったので、梅崎さんから情けないと叱咤されそうですが、幻化忌にあたり、ここに献杯を捧げたいと思います。(夏川)